残高証明書取得の落とし穴?建設業許可「500万円」の真実

建設業許可取得時に500万円以上の残高証明が必要な場合とは

 建設業許可を取得する際の要件として、500万円以上の残高証明が必要だと聞かれたことがある方も多いと思います。これは請負契約を履行出来るだけの財産的基礎又は金銭的信用を有している企業のみが、建設業許可を取得できるとする建設業許可の財産要件から求められる基準になります。

 下記では、財産要件が要求される理由や500万円の残高証明が不要な場合等についてご説明します。

〇愛知県内で一人親方をされている方が建設業許可を取得する場合については、下記記事もご参照ください。

愛知県内の一人親方が建設業許可を取得する方法

〇また、建設業許可には有効期限があります。詳細については下記記事をご参照ください。

建設業許可の有効期限は?気づいたら切れていた場合の対応方法について

財産要件として500万円以上の資金力が要求される理由

 建設業許可制度は建設業法によって定められていますが、建設業法の第1条ではその目的として「建設業を営む者の資質の向上」を図ることにより、「建設業の健全な発達を促進」することを掲げています。

建設業法
(目的)
第一条 この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。

 建設業は日本の産業の中でも重要産業であるので、建設業者の資質を向上させるために建設業許可制度が設けられ、適正な建設業の経営や施工を行うためには相応の資金力を必要とすることから財産要件として500万円以上の資金力を有することが求められるようになりました。

500万円以上の残高証明が不要の場合

 基本的に許可申請時に確認資料として500万円以上の残高証明が必要ですが、下記場合には省略することが可能です。(※建設業一般許可の場合についての説明です。特定建設業の取得の場合は別途お問い合わせください。)

①申請日の直前決算において自己資本が500万円以上である場合

②許可申請直前の5年間、許可を受けて継続して営業した実績がある場合

 ①の「自己資本」とは法人の場合は貸借対照表における純資産合計の額を、個人事業主の場合は期首資本金、事業主借勘定及び事業主利益の合計額から事業主貸勘定の額を控除した額に負債の部に計上されている利益留保性の引当金及び準備金の額を加えた額をいいます。

〇法人の場合

 下記貸借対照表の右下の黄色で塗りつぶされた部分の純資産合計の額を見ます。ここの数字が500万円以上であれば、残高証明は不要です。

〇個人事業主の場合(青色申告の場合)

 個人事業主の場合は、下記青色申告書4面の黄色の部分(元入金及び事業主借勘定、青色申告特別控除前の所得金額)から青色の部分引いた金額が500万円を以上であれば、残高証明は不要になります。もし右下に準備金という項目もあればその金額も足します。

 白色申告の場合には、上記確認が出来ませんので計算が必要になります。お困りの方は当事務所までご相談ください。

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残高証明書の取得方法

 では、残高証明書の取得方法ですが、基本的に最寄りの金融機関の窓口で発行してもらう形になります。多くの金融機関では、窓口へ申請後約1週間~10日後に窓口か郵送で受け取る形になります。

三菱UFJ銀行の残高証明書の取得方法はこちらを参照

三井住友銀行の残高証明書の取得方法はこちらを参照

 愛知県の建設業許可の場合は、本申請のタイミングで基準日が申請直前4週間以内の残高証明書を提出する必要があります。残高証明書の取得タイミングについては注意が必要なので、「残高証明書の取得時期」にて説明します。

残高証明に関するよくあるご質問と回答

自己資金500万円や土地・建物等の資産も保有していません。建設業許可を取得する方法はありますか?

金融機関が発行する500万円以上の融資証明書を提出することで、建設業許可申請が可能となる場合があります。また、貸借対照表上の自己資本の金額が500万円以上であれば、残高証明書は不要となるため、自己資金を500万円以上用意する必要はありません。

預金残高は500万円ありますが、その内金融機関からの借入が200万円あります。借り入れがある場合は、500万円の計算に加えても良いのでしょうか?

建設業許可の財産要件は「500万円以上の資金を調達する能力を有する」ことです。ですので、借入の200万円を加えて500万円以上の預金残高がある場合には、建設業許可の申請は可能です。

現在法人を経営していますが、純資産は500万円未満であり決算も赤字でした。法人として500万円以上の預金はありませんが、個人資産で500万円以上の預金があります。この場合でも建設業許可申請は可能でしょうか?

個人資産を法人資産に移すことで許可申請は可能となります。具体的には、①法人の資本金を増資する②個人から法人に貸付を行うという方法があります。決算が赤字でも建設業許可申請上は問題ございません。

会社を設立し決算未到来ですが、資本金が500万円あります。この場合残高証明書を取得せずに許可申請は可能でしょうか?

自己資本と資本金は異なる概念になります。会社の設立当初の場合は「申請日直前の決算で自己資本500万円以上」という要件を満たさない形になりますので500万円以上の残高証明書が必要となります。

建設業許可申請時の要件

 建設業許可の申請には上記のような「財産要件」を含めて3つの要件を満たしている必要があります。また、特定建設業許可を申請する場合には一般許可と比較して厳しい「財産要件」が課されています。

建設業許可に必要な3つの要件

 建設業許可申請は下記3つの要件を満たしている必要があります。

建設業許可の3つの要件

①経営業務管理責任者要件

建設業に関し5年以上の経営経験を有する経営業務管理責任者がいること

②専任技術者要件

国家資格か10年以上の実務経験を有する専任技術者がいること

③財産要件

自己資本が500万円以上か500万円以上の資金調達能力があること

 3つの許可要件についての詳細は、下記の記事をご参照ください。

建設業許可の許可要件①ー経営業務管理責任者の経営経験について

建設業許可の許可要件②ー専任技術者について

建設業許可の許可要件③ー財産要件

特定建設業許可を取得する場合の財産要件

 特定建設業許可とは、発注者から直接元請けとして請け負った1件の建設工事につき、下請けに工事を発注する合計額が税込4,500万円(建築工事業は税込7,000万円)以上となる場合に必要な建設業の許可です。

 特定建設業許可の場合には、大規模な建設工事の元請けとなり下請や孫請けの階層もより複雑になることから、一般建設業許可の場合よりも厳しい財産要件が定められています。具体的には下記の通りです。

特定建設業許可の財産要件

申請日の直前決算において、下記①~③の全ての基準を満たすこと。

①欠損の額が資本金額の20%を超えていないこと。

②流動比率が75%以上であること

③資本金額が2000万円以上かつ、自己資本が4000万円以上であること

 ①の欠損の額とは、収入から経費を引いた金額が赤字となる場合に、その赤字の金額のことをいいます。ですので、黒字の会社では自動的に①の基準は満たしていることになります。

 また②の流動比率とは、流動資産と流動負債の割合のことをいいます。貸借対照表の流動資産の合計と流動負債の合計の割合が75%以上であれば基準を満たします。

残高証明書の有効期限

 残高証明書は、その基準日が本申請の直前4週間以内のものを提出する必要があります。愛知県の場合、現在仮受付という形で書類審査を事前に行い、その後本申請を行う形になっていますので、仮受付のタイミングで残高証明書を取得してしまうと有効期限が切れてしまう恐れがあるので注意が必要です。

 また、複数の金融機関の残高を合わせて500万円以上の預金があることを証明する場合には、基準日を同一にする必要があります。これは、預金を移し替えて預金残高が500万円以上あるように見せかけるのを不正を防ぐ趣旨かと思われます。

〇融資証明書の有効期限

 融資証明書で財産要件の該当を証明する場合は、発行日が本申請直前4週間以内のものを提出する必要があります。融資証明書には、残高証明書のような基準日がないので発行日で有効期限内であるかの確認をする形だからです。

許可申請の流れと残高証明書の発行について

 それでは、愛知県における建設業許可申請の流れと残高証明書の取得時期について説明します。

愛知県における建設業許可申請の流れ

愛知県内では、コロナ禍より建設業許可申請手続きは下記流れで進みます。

①書類作成と必要書類収集
建設業許可申請書一式を作成し、合わせて身元証明書や登記されてないことの証明書等必要書類を収集します。
②仮受付
持参又は郵送にて許可申請書を正副1通ずつ管轄の建設事務所へ提出します。また確認資料を合わせて提示・提出します。約1ヶ月程書類のチェック等がされ、不備や不足がある場合には書類作成者に連絡がきます。
③本申請
仮受付が完了すると建設事務所から本申請が可能となった旨の連絡が入ります。建設事務所に出向き、新規申請であれば90,000円の行政手数料を愛知県証紙で納付し、提出書類の日付欄を全て記入します。残高証明書や融資証明書の提出が必要な場合はこのタイミングで提出します。
④建設業許可証の発送
本申請後、約23営業日後に申請者の営業所に宛てて簡易書留にて建設業許可証が発送されます。営業所確認を兼ねているので転送不要とされており、郵便物の受取が出来ないと現地調査となることがあるので注意が必要です。

残高証明書の取得時期

 残高証明書は、上記手続きの中で③の本申請のタイミングで提出します。その際、基準日が本申請直前4週間以内のものを提出する必要があります。

 仮受付~本受付までの期間は、申請する建設事務所や申請の込み具合によっても異なるため、残高証明書は①の書類作成のタイミングであらかじめ取得するのではなく、②の仮受付手続き後本申請が可能となった旨の連絡を受けたタイミングで取得して頂くのがベストです。

まとめ

 建設業許可申請の際に、基本的に500万円以上の残高証明書の提出が必要ですが、自己資本額によっては不要となるケースがあります。また、残高証明書には有効期限があり、本申請の直前4週間以内のものを提出する必要があるので、取得時期については注意が必要です。

 残高証明書等建設業許可申請でご不明な点があれば、下記お問い合わせページよりお問い合わせください。

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投稿者プロフィール

start-up22
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【スタートアップ行政書士事務所 代表/行政書士】
佐野 太一(さの たいち)

2022年3月開業。愛知県あま市にて行政書士事務所を経営。
専門分野は建設業許可、産業廃棄物収集運搬業許可、補助金申請。